こんにちは。
シンガーソングライターの福島亮介です。

 

今回の曲は平井堅さんの「ノンフィクション」

友人の悲しい死をもとに作られたという平井さん談もあり、終始哀愁を感じ生や死について考えさせられるような歌詞も目立つ曲です。今回は「友人の死」というその前提にとらわれず、登場する主人公と『あなた』のひとつの物語として見ていきたいと思います。

主人公から『あなた』への問いかけやタイトル「ノンフィクション」の意味。変わっていく命や生への価値、そして主人公の『あなた』に対する切実な願いなど。

「死」という身近にありながら自分事としては考えられないテーマが舞台となり、その中にリスナーひとりひとりが考えるべきメッセージがたくさん詰まっています。

それでは今回も詳しく歌詞を読み進めていきます。

 

 

 

楽曲情報


■平井堅「ノンフィクション」
42th Single
B面 Brand New Bike/魔法って言っていいかな? (VaVa Remix)
発売日 2017年6月7日
収録アルバム Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2
作詞 平井堅
作曲 平井堅
編曲 亀田誠治
MV https://www.youtube.com/watch?v=ihMPLCNykZI




 

歌詞解釈




【Aメロ~Bメロ】始まりは衰弱した精神状態から






描いた夢は叶わないことの方が多い
優れた人を羨んでは自分が嫌になる
浅い眠りに押しつぶされそうな夜もある
優しい隣人が陰で牙を剥いていたり

惰性で見てたテレビ消すみたいに
生きることを時々やめたくなる

出典:https://www.uta-net.com/song/230110/

>描いた夢は叶わないことの方が多い
>優れた人を羨んでは自分が嫌になる
>浅い眠りに押しつぶされそうな夜もある
>優しい隣人が陰で牙を剥いていたり
描いた夢は叶わず、そのたびに回りの人を羨んではそんな自分を卑下してしまう。そして優しく親切に思えていた人が見せる裏側や醜い部分を知っては人間不信から睡眠にも支障が出てしまう。

夢を描くことや人を信じること。きれいなはずのそれらはただの理想であると叩きつけられ、何を信じればよいのかわからなくなる。このAメロで主人公が感じている負の感情は、期待や信頼の数だけそれに沿わない結果が待っているという絶望感からきています。そんな辛い印象が残る始まり。



更に次のBメロではそんな弱った精神状態が露わになります。

>惰性で見てたテレビ消すみたいに
>生きることを時々やめたくなる
「惰性で見てたテレビ」きっと経験がある人も多いですよね。特別見たいわけでもなく、ただ目に入るだけの映像が淡々と流れている状況。これにより何の意思もなく無機質な時間や状態であることが表現され、それと同等の気持ちで主人公は「生きることを時々やめたくなる」と思っています。

命の尊厳、生への執着や死への恐怖など誰でも自然と感じるような当たり前の感情がそこにはなく、電源ボタンを押す感覚で死んでしまってもいいと思えてしまう精神状態。少しゾッとしますよね。

この後の歌詞を読み進めるとよりわかってきますが、主人公がこんな精神状態になってしまうのはこのAメロで挙げられている期待とそれに沿わない結果だけではなさそうです。このA~Bメロは、主人公の弱り切った心理描写があり簡単に聞き流せない重いメッセージの予兆があり、この先の展開が気になる始まりでもあります。それでは続いてサビの歌詞を見ていきます。


【サビ】会いたいと願う「本当のあなた」






人生は苦痛ですか? 成功が全てですか?
僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ
みすぼらしくていいから 欲まみれでもいいから
僕はあなたのあなたの 本当を知りたいから
響き消える笑い声 一人歩く曇り道
僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ

出典:https://www.uta-net.com/song/230110/

この曲のサビでは、いろいろな問いが投げかけられています。これは誰から誰への問いかけなのしょうか。この解釈がタイトルにもなっているノンフィクション=事実にも繋がってきます。弱った自分を奮い立たせるためのメッセージとも取れますが、これは主人公から『あなた』に向けての投げかけです。

>人生は苦痛ですか? 成功が全てですか?
>僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ
>みすぼらしくていいから 欲まみれでもいいから
>僕はあなたのあなたの 本当を知りたいから
これらの問いかけはすべて「あなたに会いたい」「あなたの本当を知りたい」にかかっていて、「あなたに会いたい」についても物理的にただ会いたいということではなく「本当のあなたを知りたい」「何にも飾られていない正直で素のままのあなたを見せてほしい」と考えるとより主人公の心情が見えてきます。

つまりこのすべての問いかけは、主人公が知りたいと望む「本当のあなた」に対して投げられているもの。プライドや猜疑心、見栄や欲や先入観など。そういった大人になるにつれて自然と身についてしまう不純物を取り除いた0の状態の『あなた』に対して投げかけられているものです。



そんな素のままの『あなた』は、人生は苦痛だと感じますか?成功が全てだと思いますか?そうは思わないでしょう。みすぼらしくても欲まみれでもいいから、そのままの『あなた』を見せてほしい。これがこのサビの真意であり主人公の心情なのではないでしょうか。

>響き消える笑い声 一人歩く曇り道
>僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ
続く歌詞では、寂しさや孤独の中にいる主人公が描かれています。そんな中ひたすら『あなた』に会いたいと願う主人公。自信や信頼などから遠ざかり弱った精神状態の今、主人公にとっては裏や含みのない真っ直ぐな人や言葉、時間・空間などが唯一の救いと感じていたのかもしれません。


【Aメロ2~Bメロ2】変わっていく生の価値






筋書き通りにいかぬ毎日は誰のせい?
熱い戦いをただベンチで眺めてばかり

消えそうな炎 両手で包むように
生きることを諦めきれずにいる

出典:https://www.uta-net.com/song/230110/

1番の
>生きることを時々やめたくなる
に対し、
>生きることを諦めきれずにいる
という今回の歌詞。
どちらも「死」が前提にありその視点から書かれている歌詞ですが、ここで注目すべきは命や生に対する価値の変化。軽く死を想像してしまう1番に対し、生への執着が見える2番という違いです。

>筋書き通りにいかぬ毎日は誰のせい?
>熱い戦いをただベンチで眺めてばかり
自分以外の人が充実して生き生きして見えて、それを妬むように思い通りにいかない毎日を誰かのせいにしてしまう様子。この歌詞からもネガティブでマイナス思考な負の要素を感じますが、ただ1番と2番の生や死に対する考え方の違いによってこの歌詞の捉え方も変わってきます。



死を軽んじて自分の人生に価値を感じられずにいる1番では、この歌詞にあるような事実すら傍観してどこか諦めているような、他人事と捉えているように感じます。でも生への執着が見えるこの2番では、生きることと同時にこの状況とも向き合い打開していこうと感じている姿を思い浮かべることができそうです。

>消えそうな炎 両手で包むように
>生きることを諦めきれずにいる
「消えそうな炎」とは軽くなってしまった命の価値。それを両手で包む様子から、ここでも命の大切さを再確認している主人公が表されています。また「諦めきれずにいる」という歌詞から、ほとんどの人が当たり前に考えている生も今の主人公にとっては夢や憧れのように特別なものと感じられている様子がうかがえます。

この1番と2番では生や死に対する明らかな捉え方の変化が見られますが、それではこの間に何か心境が変わるような出来事があったのでしょうか?少なくとも歌詞中にはそういった出来事は登場しておらず曲調としてもここまで大きな変化は見られません。



深読みしすぎかもしれないですが、この1番と2番は生を前向きに捉えるようになっていくというただの時系列ではなく、生と死の価値観の変化は常に繰り返されるものとして書かれているように感じます。

明日になれば1番のように突然生きることをやめたくなってしまい、また別の日には2番のようにもっと生きたいと思うようになる、でも少しのきっかけでまた死を身近に感じてしまう。その繰り返しこそリアルな日常であり事実であり、これもノンフィクションというタイトルに繋がっているのではないでしょうか。


【サビ2】『あなた』への願いや期待






人生は悲劇ですか? 成功は孤独ですか?
僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ
正しくなくていいから くだらなくてもいいから
僕はあなたのあなたの 本当を知りたいから
鞄の奥で鳴る鍵 仲間呼ぶカラスの声
僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ

出典:https://www.uta-net.com/song/230110/

>人生は悲劇ですか? 成功は孤独ですか?
>僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ
>正しくなくていいから くだらなくてもいいから
>僕はあなたのあなたの 本当を知りたいから
前回のサビ同様、ここからも「本当のあなた」に問いかけが続きます。そして1番のサビから続いて今回も問いかける内容は「人生」と「成功」について。この曲では主人公が『あなた』を悲観的に見ていたり何かに気付かせてあげたいと感じているようなシーンが多く登場しますが、その理由がこの「人生」と「成功」にあるのかもしれません。

『あなた』は絵に描いたようなバラ色の人生やサクセスストーリーに強い憧れがあり、主人公にはそのために目の前にある自分の幸せを見逃したり自分で自分を追い込んでしまっているように映っていたのかもしれないですね。

主人公はそんな『あなた』に、「人生は苦痛ですか?悲劇ですか?」「成功は全てですか?孤独ですか?」と諭すように投げかけ続けます。それは同時にもっと人生には可能性があり些細な日常から豊かにできるものであり、また成功は望むものではなく正しい努力の積み重ねから自然と生まれるもの。そして「本当のあなた」ならそのことに気付けるはずという願いや期待の投げかけでもあったのです。



>鞄の奥で鳴る鍵 仲間呼ぶカラスの声
>僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ
続くこの歌詞に共通するのは日常の風景。毎日の中で特別意識されることのないワンシーンです。こういった特別ではない日常や当たり前に過ぎていく時間の大切さ、そしてそこにこそ隠れている自分が気付くべき幸せをもっと大切にしてほしいと主人公は願っていたのかもしれないですね。


【サビ3】ノンフィクションと幸せ






何のため生きてますか? 誰のため生きれますか?
僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ
人生を恨みますか? 悲しみはキライですか?
僕はあなたのあなたの 本当を知りたいから

秘密 涙 ひとり雨 目覚めたら襲う不安
僕はあなたにあなたに ただ会いたいだけ
信じたいウソ効かないクスリ 帰れないサヨナラ
叫べ叫べ叫べ 会いたいだけ

出典:https://www.uta-net.com/song/230110/

最後のサビでは、問いの投げかけ以外にも心情を表す多くのフレーズが登場します。ひとつひとつ見ていきたいと思います。

>何のため生きてますか? 誰のため生きれますか?
「人生」や「成功」について問いかけ続けていた1~2番に対し、今回はもっと根本の部分であり人が生きる上での本質についての問い。多くの人がこの問いに詰まってしまうと思います。この問いの答えを考えるということは、自分の人生と向き合い自分にとって大切なものを探すということ。つまりこの問いを投げかけることで、主人公は『あなた』に自分の人生の価値や意味に気付いてほしかったのです。

>人生を恨みますか? 悲しみはキライですか?
この歌詞の裏に『あなた』が主人公にとってどう映っていたのかが見えます。人生を恨ましく思い、極端に悲しみを避けて生きているように見えていた『あなた』。ここで少し1番Aメロの歌詞を見直してみます。

「描いた夢は叶わないことの方が多い」「優れた人を羨んでは自分が嫌になる」主人公はこれが普通の人生であり誰しもが通る当然であると、そしてそんな体験からこそ得られる成長がありそれらが実のある未来を作ると伝えたいと感じていました。それが今回の問いに繋がっていて、「人生を恨みますか?」「悲しみはキライですか?」という質問によって『あなた』にそのことを気付いてほしかったのかもしれません。



それを踏まえて続きの歌詞を見てみると、その思いがより切実に伝わります。
>秘密 涙 ひとり雨 目覚めたら襲う不安
>信じたいウソ効かないクスリ 帰れないサヨナラ
>叫べ叫べ叫べ 会いたいだけ

  • 秘密→不信・裏切り
    →悲しみ・痛み
    ひとり雨→孤独・侘びしさ
    目覚めたら襲う不安→悩み・恐怖

ここに登場するフレーズはすべて日常における辛み苦しみを表現するものばかり。

  • 信じたいウソ
    現実と理想の間での葛藤
    効かないクスリ
    症状を改善できないということから今より明るい未来を信じきれないということの比喩
    帰れないサヨナラ
    えない別れの傷の表れ、そして現実からの逃避

これらも人生で誰もが味わう残酷だけどでも必要な経験や感情です。「ウソ」「クスリ」「サヨナラ」がすべてカタカナ表記にされているところも、人間味を感じない無機質で冷たい印象を受けますね。

このどれもが事実(ノンフィクション)であり、人を強くたくましく成長させていくもの。こういった誰しもが通る日常における辛み苦しみがありそれらを乗り越え成長する過程で本当の幸せに気付くことができる、主人公はそのことを『あなた』伝えたいと感じていたのです。最後は「叫べ」とその気持ちが溢れてしまいそうになる様子も伝わってきます。

 

最後に





平井さんが語るこの曲の元になっている悲しい友人の死。その事実がタイトルのノンフィクションと表されているのかもしれません。今回は少しその前提を置いて、この曲に登場する主人公と『あなた』のひとつのストーリーとして見てきました。

誰もが必ず体験する日常の苦しみや悲しみ、挫折や困難や絶望。そして過度なそれらは生きる意欲や勇気を削ぎ落とし人に死をも連想させます。ですがこの曲で主人公が必死に訴え続けているのは、「本当のあなたはそれらをどう感じるか」「それらは本当のあなたに必要なものなのか」ということ。そして「生きろ!」という強いメッセージ。

この曲で主人公から『あなた』への問いかけている全ての質問に対して自分なりに深堀りしてみることで、きっとその答えの中に気付けなかった幸せがいくつもあると思います。ストレス社会で心にゆとりを持ちづらい現代だからこそ、この曲から伝わる「生や日常の価値」としっかり向き合い毎日を豊かに変えていきたいですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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