
スピッツ「正夢」/ 歌詞の意味と解釈
こんにちは。
シンガーソングライターの福島亮介です。

今回の曲は「正夢」
ドラマ「めだか」主題歌
片想いというより、けんか別れなどで未練が残る相手への歌なのかなという印象。
「どうか正夢」
これだけの言葉ではっきり伝わる想いや願い、それがあの優しく迫力のある歌声に乗り、何度聴いても感動必至。
MVでは貴重な短髪時期の草野さんも見られます。
そして草野さんの声は鼻から頭の方にスーッと抜けていって、聴いていてすごく心地よい。
この曲も歌声の魅力がとても伝わります。
それでは今回も詳しく歌詞を見ていきたいと思います。
楽曲情報
■スピッツ 「正夢」
29th Single
B面 リコリス
発売日 2004年11月10日
収録アルバム スーベニア
作詞・作曲 草野正宗
プロデュース スピッツ&亀田誠治
MV https://www.youtube.com/watch?v=algaC2jhu8s

歌詞解釈/感想
わかりやすい描写もあり、見方によってはその先で違う展開を見せる部分もあり。
聴き手に自由な解釈をさせてくれるところも、スピッツの魅力。
自分なりの解釈ができたとき、曲がグッと身近になります。
タイトルにもなっている「正夢」に込められた物語を、少しずつ深堀りしていきます。

それではA~Bメロから
“ハネた髪のままとびだした
今朝の夢の残り抱いて
冷たい風 身体に受けて
どんどん商店街を駆け抜けていく
「届くはずない」とか つぶやいても
また 予想外の時を探してる”
出典:http://j-lyric.net/artist/a000603/l002e46.html
風景が浮かびやすく、主人公の心境も伝わってくる始まり。
>ハネた髪のままとびだした
ここはそのまますぐにイメージできますよね。
寝坊して遅刻寸前、起きて着替えてそのまま家を飛び出す風景。
誰でも一度は経験があると思います。
ではなぜ寝坊をしたのか、その理由が、このあと広がっていく物語の中心です。
この後の歌詞で徐々に明らかになっていきます。
>今朝の夢の残り抱いて
「抱いて」という表現からも、今朝の夢は主人公にとって大切でとても良い夢だったのだろうと想像がつきます。
そこにきてこの「正夢」というタイトル。
まだ全然情報が少ない中、この時点ですでに曲の全貌を想像してしまいそうになります。
そしてこの後から、一気に視点は現実へ。
>冷たい風 身体に受けて
おそらくいつもと変わらない気温だったのでしょうが、「冷たい風」という表現からも、急に夢から現実に引き戻された様子が伝わります。
そして商店街を爆走、走るというより息を切らして自転車を飛ばしている風景が浮かびます。
そんな遅刻しそうな中でも、主人公にはずっと頭に過ぎっていることがあります。
それは「今朝の夢の残り」。
続くサビで夢の正体は明らかになってきますが、先に言ってしまうと主人公が見た夢は「君」と会う夢。
目覚めるギリギリまで、夢の中で主人公は「君」と会っていたのです。
そして、
・「届くはずない」=あれは夢で、実際に「君」はいるはずがない
・予想外の時=「君」を見つけ、会うことができる瞬間
遅刻しそうになりながらも、こんなことを考えながら商店街を駆け抜けているのです。
想像すると切なくなりますね。

そしてサビへ
“どうか正夢 君と会えたら
何から話しそう 笑ってほしい
小さな幸せ つなぎあわせよう
浅いブールで じゃれるような
ずっと まともじゃないって わかってる”
出典:http://j-lyric.net/artist/a000603/l002e46.html
本曲で伝えたいこと、主人公の心情や願い、このサビにすべてが詰まっています。
>どうか正夢 君と会えたら
>何から話そう 笑ってほしい
繰り返しになりますが、遅刻ギリギリまで主人公が見ていた夢は「君」と会う夢。
それはとてもリアルであり、そして猛烈な願いのあまり、現実で「君」と出会えたときのことを想像する主人公。
「何から話そう」「笑って欲しい」などの歌詞からも、「君」への想いが溢れてしまっている様子がひしひしと伝わります。
>小さな幸せ つなぎあわせよう
>浅いブールで じゃれるような
遠回しのようで、実は主人公の心境を端的に表している例え。
「浅いプールでじゃれる」この響きから想像できるのは、まず子供の水遊び。
邪念もなく真っ直ぐただ純粋にその時間を楽しめる、子供の風景です。
しがらみもなく意地もプライドにもとらわれず、その時間を世界のすべてにできる無垢な気持ち。
大人から見たら何てことない小さな幸せでも、主人公が求めているものはまさに「君」とのそういう関係、時間だったのではないでしょうか。
小さな幸せをいくつもいくつもつなぎあわせて、振り返ったときに見える二人だけの大きな幸せ。
でも、結局それはすべて正夢を期待した妄想。
妄想を繰り返す自分を「ずっと まともじゃないって わかってる」と現実に引き戻します。
最後は、幸せな空間から一気に突き落とされるような悲しい描写。
この締めくくりが、余計に主人公の正夢に対する渇望を際立たせます。

2番Aメロへ
“八つ当たりで傷つけあって
巻き戻しの方法もなくて
少しも忘れられないまま
なんか無理矢理にフタをしめた”
出典:http://j-lyric.net/artist/a000603/l002e46.html
ここの歌詞を見るまでは、主人公と「君」の関係がはっきりしませんでした。
どちらかというと、「君」は主人公にとって雲の上の存在、もしくは接点を持つのが不可能な別次元を生きる人。
そんな憧れや片想いのようなイメージでした。
でも、このシーンは主人公の回想であり、そしてこの曲は常に主人公が「君」と会う正夢という舞台の上で進んでいます。
となると、過去に八つ当たりで傷つけあったり、忘れられなかったりする対象はやっぱり「君」と考えるのが自然。
ここの歌詞から、主人公と「君」は元恋人、もしくは大げんかをして離れた状態にある二人なのかなという印象に変わりました。
>少しも忘れられないまま
>なんか無理矢理にフタをしめた
忘れられない「君」を無理矢理忘れようとして、でもふとした瞬間に過ぎり、また忘れようとして。
苦しい主人公の状況が伝わってきますよね。
続くBメロでは、耐え切れなくなった主人公の心情や、そこから行動に移す様子が書かれています。

続いて2番Bメロ
“デタラメでいいから ダイヤルまわして
似たような道をはみ出そう”
出典:http://j-lyric.net/artist/a000603/l002e46.html
>デタラメでいいから ダイヤルまわして
「君」と絶縁となった、もしくは大げんかで「君」の番号をすべて消去した主人公。
それでもやはり「君」が忘れられない、話したい。
そんな強い気持ちが行動に現れているシーンであり、「君」に繋がる奇跡を信じて、電話機を前にデタラメでもダイヤル回そうと心を決める主人公の風景が浮かびます。
またダイヤル式というと昔の黒電話をイメージしますが、雰囲気を出すための演出でしょうか。
ここにももしかしたら時代設定や別の意味があるかもしれません。
そして、何のためにダイヤルを回すのか。
>似たような道をはみ出そう
「似たような道」とは、ドラマや漫画などでよく見る恋が終わっていく場面のような、そういうよくある失恋の風景というか、恋はいつかは終わるという常識的なものを指しているのではないでしょうか。
そして今の二人がまさにそんな状況に思えた主人公は、その「似たような道」からはみ出す(抜け出す)ために、ダイヤルを回そうとしているのです。
「君」に電話が繋がったときには、おそらくもう一度想いを告げるのでしょう。

2番サビへ
“いつか正夢 君と会えたら
打ち明けてみたい 裏側まで
愛は必ず 最後に勝つだろう
そうゆうことにして 生きてゆける
あのキラキラの方へ登っていく”
出典:http://j-lyric.net/artist/a000603/l002e46.html
>打ち明けてみたい 裏側まで
打ち明けてみたい裏側、とはなんでしょうか。
過去の「君」との時間で素直に伝えられなかったことや、隠し続けたコンプレックス。
または離れ離れになっていたときの、会いたくて仕方なかったこの気持ちなど。
1番サビの「浅いブールで じゃれる」とも共通しますが、主人公は「君」の前で素直で純粋な自分、ありのままの自分でいたかったのだと思います。
今度この夢が正夢となったときこそ、そんな自分になろうという気持ちの現れなのではないでしょうか。
>愛は必ず 最後に勝つだろう
>そうゆうことにして 生きてゆける
1番サビの出だしでは「どうか~」、ですが2番サビでは「いつか~」。
そして↑の歌詞からも、この2番では主人公の気持ちに余裕が出てきているような印象を受けます。
「愛は必ず最後に勝つ」、つまり正夢を願い続けていればいつかは必ず君に会える。
そういうことにして生きていこうと、一旦気持ちをグッと抑えられている様子。
>あのキラキラの方へ登っていく
そしてここで出てくる「キラキラ」。
草野さんの歌詞ではこういう擬態語が多く使われます。
言葉を並べるよりイメージしやすかったり意味が伝わりやすかったり、とても有効的に使われています。
それではここでのキラキラは何を指しているのでしょうか。
この後サビを一度挟んでその最後には
>もう一度キラキラの方へ登っていく
と締められます。
もう一度、ということは主人公はこのキラキラを過去に経験したことがあるのです。
直感的に、これは主人公の精神状態のようなものを指しているのではないかと感じました。
「君」と一緒にいたときのようなエネルギッシュで生き生きした自分。
やる気に溢れ毎日に意味を見出せたあの頃。
それをしっかり感じられた精神状態、健康的な心。
これをキラキラと表現し、幻にすがってばかりいないでもう一度あの頃の自分に戻ろう、と気持ちを入れ替えているのです。
そう考えると「そうゆうことにして 生きてゆける」という余裕を感じられる歌詞にも繋がり、あの夢が正夢となることを楽しみに、前を向いて生きていく主人公も想像ができます。

最後に
ここまで見てきたように、この曲は「君」と会う夢を見た主人公が正夢になることを願い、そこから生まれた素直な気持ちや気付き、葛藤や後悔、そして現実と対峙する強さ。
そんなたくさんの物語りできている曲です。
難しかったり珍しかったりという言葉も特に使われおらず、またメロディがとても耳に残るのでついつい歌詞を見落としがちになります。
でもこうしてじっくり読んでみると、細かい部分まで丁寧に言葉が選ばれていて、斬新で感情的な表現がたくさんあって、とても文学的。
草野さんの書く歌詞からは文字に収まらない百の風景や感情を見ることができます。
この主人公はもしかしたら一生「君」とは会えないかもしれません。
曲中でもハッピーエンドを示唆するような表現は一切使われていません。
それでもこの曲から伝わる希望的であったり感動的な印象は、何気なく耳に入るその一言一言、そこから無意識に想像させられている風景やストーリー、まさに歌詞に収まらない多くの情景がもたらすものだと思うのです。
またひとつ、スピッツの名曲が身近な1曲になりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
★少し余談ですが★
Wikipediaで初めて知りましたが、歌詞中の「愛は必ず 最後に勝つだろう」。
これはKANの「愛は勝つ」から引用されており、そのためSpecial Thanksに「KAN」とクレジットされているのだそうです。

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